ハイコンテクスト文化の罠
- 広 天田

- 1 日前
- 読了時間: 4分
日本・フィリピン・インドネシアをカルチャーマップで比較してみた
「ちゃんと伝えたはずなのに、伝わっていなかった。」
外国人材と一緒に働く中で、そのような経験をしたことはないでしょうか。介護現場でも、「わからないなら聞いてくれればいいのに」「“はい”と言っていたのに理解が違っていた」「日本人の気遣いがうまく伝わっていない」と感じる場面があります。しかし、これは単純に日本語力だけの問題ではありません。背景には、国ごとのコミュニケーション文化の違いがあります。

私は、社会福祉法人三山会の事務長として、フィリピンやインドネシア人の外国人スタッフと共に介護現場をつくる中で、「日本の当たり前は、世界では当たり前ではない」ということを何度も感じてきました。今回は、The Culture Map の考え方を参考にしながら、日本・フィリピン・インドネシアの3か国の文化の違いについて、介護現場の視点から考えてみたいと思います。
日本は、世界的に見ても“ハイコンテクスト文化”の傾向が強い国だと言われています。ハイコンテクストとは、「言葉以外の情報を重視する文化」のことです。日本では、空気を読む、察する、行間を読む、相手の立場を汲み取ることが重視されます。例えば、「できれば早めにお願いします」という言葉。日本人同士であれば、多くの場合、「急いで対応しよう」と理解します。しかし実際には、何時までなのか、どの程度急ぎなのかは明確に言葉になっていません。つまり、日本人は“文脈や背景”を共有しながらコミュニケーションを取っているのです。
これは、日本社会が長年培ってきた協調性や気遣い、和を重んじる文化とも深く関係しています。相手に強く言いすぎないこと、空気を壊さないことが、美徳として育まれてきました。そのため、日本では「言わなくてもわかる」が、思いやりや信頼関係の前提になっている部分があります。
一方で、フィリピンも人との調和を大切にする文化ですが、日本とは表現の仕方が異なります。フィリピンでは、表情や声のトーン、リアクションなど、感情表現を通じて信頼関係を築く傾向があります。そのため、日本人上司が表情をあまり変えなかったり、リアクションが少なかったりすると、「怒っているのかな」「自分は大丈夫かな」と不安に感じることがあります。逆に日本人からすると、「なぜそこまで感情を表現するのだろう」と驚くこともあります。しかし、どちらが正しいという話ではなく、文化的な違いとして理解することが大切なのだと思います。
インドネシアもまた、対立を避け、相手との調和を大切にする文化があります。特に、「相手を傷つけない」「恥をかかせない」「場の空気を悪くしない」という価値観が強く根付いています。そのため、「大丈夫です」と言っていても、実際には困っている場合があります。しかしそれは、「迷惑をかけたくない」「相手に配慮したい」という気持ちから来ていることも少なくありません。日本人は「困っているなら言ってほしい」と思いますが、相手側は「場を乱さないようにしている」つもりだったりします。こうした違いを理解することで、“伝わらない”を減らしていくことができます。
日本の介護には世界に誇れる価値があると思っています。利用者の小さな変化への気づき、先回りの配慮、チームケア、丁寧な対応。これらは、日本独自の強みです。ただ、その多くは「空気」や「暗黙知」によって支えられている部分もあります。だからこそ、多文化共創の現場では、その“当たり前”を言葉にしていくことが重要になります。
例えば、「できれば早めにお願いします」ではなく、「15時までにお願いします」と具体的に伝える。それだけでも、コミュニケーションのズレは大きく減ります。暗黙知を言語化し、やさしい日本語で伝え、ルールを見える化していくことは、外国人材のためだけではあ
りません。結果として、日本人同士にとっても働きやすい職場づくりにつながっていくと感じています。
外国人材の受け入れが進む中で、これからの介護現場には、「違いを理解しながら、共に働く力」がますます求められていくのではないでしょうか。文化が違うからこそ、日本の良さを再認識できることがあります。そして、相手の価値観を知ることで、自分たちの介護をより“伝わる形”に磨いていくこともできます。
三山会でも、外国人スタッフを単なる労働力ではなく、「共に地域福祉を支える仲間」として迎えています。違いを知ることは、相手を理解するだけではありません。それは、日本の介護の強みを、次の時代に向けて進化させていくことにもつながっているのだと思います。
▼カルチャーマップ(異文化マネジメント)

令和7年度認証 群馬県多文化共創カンパニー
社会福祉法人三山会
事務長 天田広



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