フィリピン介護人材が世界で選ばれる理由
- 広 天田

- 2 時間前
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ここ数年、日本の介護現場では外国人スタッフの姿を多く見かけるようになりました。当法人にも、フィリピンから来た仲間たちがいます。彼らは明るく、真面目で、チームを和ませる力を持っています。
では、なぜ世界の介護現場で「フィリピン人材」が選ばれているのか。そして、なぜ日本の介護施設がいま彼らを求めているのか。今日は、その背景を“歴史・文化・制度・信頼性”の4つの視点からお話しします。
Ⅰ. 国家戦略としての「人材輸出」
フィリピンが海外に人材を送り出すようになったのは、1970年代。第10代大統領フェルディナンド・マルコス氏(現マルコス大統領の父)の時代にまで遡ります。当初はスキルを伴わない単純労働者が中心でしたが、国として方針を転換し、「技能を持つ人材を海外に送り出す」政策を打ち出しました。
この政策により、看護・介護分野の人材育成が国家的な柱となり、現在ではほぼすべての大学に看護学部が設置されています。また、教育技術省(TESDA)が運営する職業訓練校では、介護の国家資格「NCⅡ Caregiver」を取得でき、介護の専門家として世界で通用する人材が次々と育っています。
つまり、フィリピンには「介護・看護人材を体系的に育てる国家の仕組み」があり、若い世代にとって“誇りを持てる専門職”としての地位が確立しているのです。平均年齢24歳という若い国でありながら、彼らにとって介護は“海外で活躍するプロフェッショナル”の象徴でもあります。
Ⅱ. 世界で信頼される理由 ― 文化・性格・制度の三拍子
1. 日本社会との親和性
フィリピン人は戦後早くから日本に定住し、介護保険制度以前の「ホームヘルパー2級」の時代から現場で活躍してきました。そのため、日本人職員や利用者にとっても馴染みがあり、宗教・文化的にも日本社会と調和しやすい特徴を持っています。
2. 「人に寄り添う」キリスト教文化と高いエンパシー
フィリピン国民の約95%がキリスト教徒。「困っている人に手を差し伸べる」文化が、家庭や地域社会に深く根づいています。この背景が、介護・看護・ホテル・レストラン、家事手伝いなど、ホスピタリティが求められる“お世話する仕事”に対しての天性の適性につながっています。
特に注目すべきは、彼らの持つEmpathy(エンパシー=共感力)です。Sympathy(同情)が「かわいそう」と感じることなら、Empathyは「相手の立場で感じ、行動すること」。
たとえば、耳の遠い高齢者に対して、ただ大声で話すのではなく、“聞こえづらい状況そのもの”を理解し、表情や身振りで伝えることができる。この「相手の世界を想像して動ける力」こそ、介護の本質であり、フィリピン人の最大の魅力です。
3. チーム意識と柔軟な協調性
フィリピン人スタッフは、職場全体の空気を読む力にも長けています。同僚が困っていれば自然に助け、「上司や仲間の期待を裏切りたくない」という文化があります。急なシフト変更や休日出勤にも柔軟に対応し、いつも笑顔で「お互い様」と思える。こうしたチーム意識が、介護の現場に安心感と温かさを生み出します。
Ⅲ. 転職しづらい制度設計と圧倒的な定着率
フィリピン政府は、自国民を守るために独自の厳格な送り出し制度を整備しています。日本で採用する際には、移民労働省(DMW)および移住した労働者事務所(MWO)の事業者登録が必須。登録していない企業は、面接や募集すらできません。一度認定を受けると、その有効期間は4年間。同条件であれば再申請不要で採用を続けられます。
この仕組みは、本人にとっても企業にとっても安心できる制度であり、結果として「転職の少なさ」に直結しています。実際、弊社の現地パートナーでは、315名中 転職3名・帰国3名=定着率98%という数字を実現しています。これは他国ではほとんど見られない安定度です。
Ⅳ. 採用コストの誤解と本質
フィリピン人材の採用は「コストが高い」と言われます。確かに、インドネシアやミャンマー等どの国も渡航・教育・日本語学習などを含めると、一人あたり約60〜70万円の費用がかかります。しかし、その理由は制度の透明性と倫理性にあります。
フィリピンでは、全ての費用を雇用主が負担することが法律で定められています。候補者に借金を背負わせない仕組みであり、本人は「支えてくれた企業への恩返し」を働く原動力にしています。
ベトナムやインドネシアでは、候補者自身が費用を一部負担することもあり、結果として「借金返済のための出稼ぎ」となり、離職や転職につながるケースがあります。
フィリピンの場合、企業が学費を投資し、候補者が契約を守る「奨学金型モデル」。それが高い定着率と信頼関係を支えています。「コストが高い=契約が守られる=人が辞めない」これがフィリピン採用の本質です。
Ⅴ. 採用プロセスと成功のポイント
① 事前登録(MWO・DMW)
企業情報と求人条件を提出し、承認後に募集・面接が可能。
② 求人条件
都道府県の最低賃金+100円以上が基準(手当で充足可)。
③ 人数は多めに申請
承認は4年間有効のため、将来的な採用拡大を見据えて設定。
④ 信頼できる送り出し機関と連携
教育方針を共有し、ミスマッチを防ぐことが定着の鍵。
この流れを理解して取り組むことで、採用のリスクを最小限に抑え、長期的なチーム形成が可能になります。
Ⅵ. “安さ”より“信頼”を選ぶ時代へ
以前は「人手不足を埋めるため」に外国人を採用する施設が多くありました。しかし、近年は「長く働いてくれる人を選びたい」という意識に変わっています。技能実習から特定技能に移行しても、数年で辞めてしまうケースを経験した事業所は、“人が辞めないことこそ最大の価値”だと気づき始めています。
その中で、転職リスクが低く、チーム意識が強く、ホスピタリティにあふれるフィリピン人材が選ばれるようになったのです。介護保険制度の中で限られた収益をやりくりする経営では、“安さ”だけで人を選ぶことはもう通用しません。“定着と安定”こそが、これからの採用戦略の基準になります。
介護の現場に必要なのは、「人手」ではなく「人の力」です。その力を支えるのが、フィリピン人材のまっすぐな人間性と国家の仕組み。短期的な労働力ではなく、「共に育ち、共に支える仲間」として、これからの福祉を共創していきたい。
介護は国境を越えて“人を想う”仕事です。そして、日本の中心、群馬の現場で花を咲かせていきたいです。




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